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坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第五回

「運命は何度でも」

80%offに心が踊る。

一目惚れパンツが80%offとなれば、もう買うしかないっしょ!となるかと思いきや、買い物にはシビアなところがあって、一旦、お取り置き。

あぁ〜、でもさ〜、これって〜、運命じゃぁ〜ん!?と財布を抱きしめながらの帰宅。

そうそう、運命と言えば、今年の春頃。

後輩男子の隼人が、坂詰さんにちょっとお話したいことがあるのでお時間いいですか?と訪ねてきた。

「おっ!久しぶり!元気そうじゃん。お昼買いに行く?」

「で、どうなの?仕事は?」とモスバーガーの店内で聞く私に「はい、仕事は頑張っています!」と相変わらず真面目な口調の隼人。「そっか!良かった!で、話したかったことって?」と尋ねた後、間髪入れずに「彼女と別れた?」と続けると、流石、坂詰さん!と言わんばかりに目を開き驚いた表情をして「はい。別れました。」と静かに彼は目を伏せた。

アーティストになる夢を持つ隼人には高校時代から付き合っている彼女が居て、彼女のご両親は彼の夢をあまりよく思っていない。その反対される様子はまるでロミオとジュリエット。以前から相談をうけていた私は、今回、突然、話があると連絡をもらった時から、なんとなく悲しい予感がしていた。

テイクアウトしたハンバーガーが冷めないように足早に歩いていると「坂詰さん…?」と彼は神妙な面持ちで話しはじめた。「僕、彼女と結婚すると思ってました。それで、その…恥ずかしいですけど、運命の人だって。」その言葉で彼の味わった大きな喪失感と悲しみが私にまで伝わってきた。それなのに「そっかぁ。そうだよね。」としか言えない私。

横断歩道は赤信号。私達の目の前をビュンビュンと車が通り過ぎ、空には綺麗な青空が広がっている。

おそらく、彼が沢山泣いたこと、彼女のことを本当に大好きだったこと、それでも世界は今日も平然と廻っている。桜の花は春を喜んでいるかのようにフワリフワリと揺れていた。

桜の枝から覗く赤信号を眺めながら、私は20代の頃の恋愛をぼんやりと思い出していた。

べつに特別多くの恋愛をしてきたわけではないけれど、この人と結婚するかも。という夢見がちな恋愛なんて何度もしてきた。そう、何度もしてきたんだ。

「いい?隼人!例えば、さっきのモスバーガーの女の子がレジ担当だったこと、映画館の席の隣の人とか、久しぶりにバッタリ会った同級生とか、きっと、そういう偶然も運命なんだよ。だから、大丈夫!運命は何度でもだよ!」

信号が青へと変わる。

彼はニコニコと微笑みながら「うぉ〜、いい言葉だ〜。運命は何度でもかぁ。俺、やっぱ、今日、坂詰さんに会いにきて良かったぁぁぁ〜。」とモスバーガーの袋をグングン揺らして先へ歩いてゆく。

‘運命の人はたったひとり’だなんて誰が決めたの?

何人いたっていいじゃない!運命の人!

そして、私はこれから運命のパンツのお迎えに行く。

何着あったっていいじゃない!運命の服!笑

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