
坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第二回
「つまんなーい。」
スパークリングワインの注がれたグラスを合わせたら、それは再会の、いや、マシンガントークのゴングとなる。
「それがね、元彼と寄りが戻ったの。」と前菜のトリッパを頬張る口元を手で押さえながら友達の莉保が話し始めた。
別れた事情を知っていただけに、えぇぇ?あの彼と?と驚きながら最後の一口をいただくと、丁度良いタイミングで熱々の魚介のフリッターがテーブルに運ばれてきた。
「それでどうなの?幸せなの?」と尋ねると「それがね、なんだか分からなくて。」と眉間に皺を寄せながらレモンを絞る彼女。
「ねぇ、じゃあさぁ?彼と会えない時間、つまらないな。って思う?」と質問を続けた。
実はこれ、私が恋愛迷子になってしまった時に使う必殺技なのだ。
私もいい大人になり、しっかり働き、多趣味だし、毎日やりたいことも会いたい人もいる。
自分の時間を有意義に使うことなんてお茶の子さいさい。
そんな中、もしも、彼に対する自分の気持ちを見失ってしまったら、ひとりきりになり、自問自答してみる。
― ねぇ?私、今、彼と一緒にいないけど、どう?つまらない? ― と。
私にとっての恋はハートの寂しさを埋めるものではなくて、ハートに愛を詰めていくもの。
クダラナイ毎日のLINEもOurブームな口癖も、そういった日常の何気ない小さな愛しさって、いつの間にかハートのタンクになみなみと注がれていて、その愛に溺れて自分の気持ちを見失ってしまいがち。だから、そんな時は必ず自分に聞くようにしている「どう?つまらない?」って。
「ねー、みーちゃん!お腹いっぱい?デザート、どうする?ティラミスにセミフレッド、バナナのタルトあるけど!」と莉保はデザートメニューとにらめっこしていた。
お腹いっぱいと同じように、愛がいっぱいも自覚出来たらいいのに。と思う。
店を出ると、雨に濡れた夜の青山通りが艶やかだった。傘を持っていない私たちはタクシーに乗り込んだ。
肩についた雨粒をタオルでふきながら、小さな声で莉保は言った。「私、ちょっと考えてみるよ。つまらないかどうか。」