坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第八回

「 時を越えて 」

「今度、東京へ行くので飯でも食いませんか?」

誘ってきたのは4つ年下の彼だった。

私達が知り合ったのはまだ20代の頃で、知り合って暫くして、彼は仕事で地方へと転勤してしまった。
それ以来、誕生日や正月など連絡は程良くとっていたけど、多分、6年は会っていなかったと思う。そんなある日、たわいも無いメールの流れから食事の誘いを受け、夏の終わりに、私達は小さなイタリアンレストランで再会した。

久しぶりに会う彼は素敵になっていて、あの頃には無かった色気が増している。

ふたりきりでは初めての食事。どうなる?と不安に思ったのは最初だけ。
家族、仕事、恋とオールジャンルで会話が弾む。昔は気にした年齢差も今は気にならないから、話題や接し方を考える必要もない。
私はお姉さんとして彼に物申したりしなかったし、むしろ「そうなんだ〜!」「やば!確かに〜!」の素なリアクション。
一方、彼も彼で、遠慮なしに冗談を言ってきたり、真面目な話になれば深く共感してくれたり、あと、知らない間にお会計を済ませてくれちゃったりなんかして。ドアを押さえる姿はジェントルマン。もう、男の子じゃなかった。

店を出て、車道側を歩く彼が「ちょっと吸っていいっすか?」とタバコを咥えたので、私は出番が来たみたいに喋り出す。

「今日はありがとね。なんかさ、いつも頑張らなくちゃ!って思いながら生きてて。うまく言えないんだけど、今日はちゃんと女の子にしてくれて、ありがとう。すごく嬉しかった。」

そう伝えると、彼は顔を横に向け、煙を吐きながら、小さく微笑んだ。

この日、友達をやめてみるのは簡単だったと思う。だけど、彼は明日新幹線で帰る人。離れた距離の寂しさは距離でしか埋められないことは分かっていたから、まっすぐ駅へ向かうことにした。
「そろそろ、帰ろう!」

電車は逆方向。改札に着くと彼は両手を広げて、私は躊躇せず、その腕の中に飛び込み、軽くハグをする。
スタイリング剤とアルコールとタバコ、それと、やっぱり、大人の男の人の香りがした。

―次に私達が会えるのはいつ?―

駅のホームから恋の境界線を越えないよう慎重にメールを送る。
“今日は楽しかった” “さみしいよ〜!ありがと〜!”
すると「明日、出発まで時間があります!早起きしてデートしましょう!」の返事。

揺れる電車の中、私はデートという言葉をギュッと抱きしめた。

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