坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第十二回
「 4月のふたり 」
先日、とあるモデルさんの言葉に共感した。
「華やかに見せることが仕事だけど、実は心がズタボロの日、ありますよ〜。」
私にもある。心ズタボロの日。
だけど、立ち直らなくちゃいけない。
そんな時、私は親友がくれた言葉を思い出している。
彼女と出逢ったのは17歳。
私たちは同じ専門学校で、入学した時から、いつも一緒にいた。新しい曲が出来るとレコーディングに付き合ってくれて、ライブにも必ず来てくれた。好きな人が出来れば一番に報告したし、失恋してガリガリになった時も「胃袋どこにあんのよ?」と一番心配してくれた。
学校を卒業して、初めての一人暮らし。
彼女はよくウチに遊びにきていた。
当時、偶然居合わせた彼氏から「一緒に居るのに沈黙の時間があるんだね。」と驚かれ、言われてみると確かに存在する沈黙の時間。
話さなくても不安にならない。
なんていうか、彼女の醤油が欲しいタイミングに醤油を差し出せる、みたいな空気感で、親友というより、いつしか家族のような存在になっていた。
そんな彼女と出逢って10年経った頃。
私は、何もかもを無くし、まるで人生が終わったみたいな気持ちになったことがある。
その時、彼女は言った。
「みさこ、大丈夫。色んなものを奪われたとしても、努力は誰にも奪えないよ。」
それは絶望的な私にとって、暗闇に光が射すような希望の言葉だった。
もしも、本当に努力が誰にも奪えないものだとしたら…
これまでの努力貯金は消えないし、これからも努力をしていけば大丈夫。道は開ける。と再び前を向くことが出来た。
私の生きる道を、一番近くで見てきてくれた彼女の言葉だったからこそ、大きな説得力があったのだ。
あれから数年が経ち、大人になった今でも心ズタボロの日はある。
そんな時、思い出す。
“みさこ、努力は誰にも奪えないよ。”
見えない未来を信じてみようと思えたこの言葉に、私はこの先も助けてもらうのだろう。
それと、気づいたことがある。
私たちの友情だって、誰にも奪えないものだよ、きっと。