坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第十一回
「 キャンディーちゃんが教えてくれたこと 」
「昨日は楽しかったねー♡」「また遊ぼうねー♡」「会いたいよー♡」
浮気メールを発見。
美紗子山は噴火。マグマは部屋中に流れ出した。
「ねー、このメール、どういうこと!?」
尋問する私に“友達だ”と言い張る彼。
埒のあかない事情聴取。カツ丼の出てこない時間が続き、共犯らしき女に電話をかける。
「もしもし?あのさ、あんたたち、どういう関係?」
と私は自分恋愛史上最も強い口調で尋ねた。
しかし、電話越しから聞こえてきた相手の女性の声は私とは真逆のトーン。
「にゃん♡」というセリフが似合いそうな典型的ぶりっ子ボイス。
それはまるでポケットの中で溶けたキャンディーみたいだった。
「うちなぁ〜、ほんまにぃ〜、友達なんよぉ〜。」
「は?友達?」
「せやねん。友達やねぇ〜ん。」
「◯月◯日、あなた、彼と泊まってますよね?もうね、メール見てんのよ!どういうつもり!?」
浮気の証拠をガッツリ掴んでいる私は現行犯逮捕するくらいの勢いでかかって行った。
しかし、彼女はしぶとかった。
「あぁ〜、その日なぁ〜、会ったなぁ〜。その日はぁ〜、相談にのってもらってたんよぉ〜。」
電話越しなのに、鼻で笑いながら話すのが伝わる。
腹が立つ。
それより何より、モラルの違いか、悪びれた様子を微塵も見せないのだ。
「だからぁ〜、そんな言われてもぉ〜、違うんよねぇ〜。友達なんよぉ〜。」
の一点張り。
この日、修羅場をどう終えたかは火山が噴火しすぎて、よく覚えていない。
だけど、修羅場の最中、“ひょっとしたら、彼女の方が大人なのかもしれない。”
と心の奥の方で気づいてしまっていた。
浮気をしたのは私じゃない。
この戦いは必ず私が勝つはず。
それなのに自分の怒り狂った姿はなんだか滑稽で、冷静沈着な彼女の態度の方が女として勝っているような気がした。
ダメなんだ、怒りだけで戦おうとしては。怒りをぶつけて発散しても何の解決にもならない。
キャンディーちゃん事件以降、私は美紗子山が噴火しそうになると、まずはひと呼吸置いて、冷静になるようになった。
このバトル、実は十年以上前の出来事。 あの時、怒りと向き合わせてくれたキャンディーちゃんに、私はわりと感謝している。
大人になったキャンディーちゃんの強かさは増しているのだろうか。
恋愛って本当に色んなことを教えてくれるよな。
つくづく、そう思う。