ジュエリーデザイナーの創造性と展望「EMIKO AMANO」|未知なる聴取 #02
本企画はインタビュアー・伊藤巧さんが「いま興味のあるクリエイターさん」を招いて、さまざまな質問を投げかけて「聴取」するインタビューです。自身もグラフィックデザイン業界に身を置き、アートやモノづくりが好きな伊藤さんが連載形式で様々な業界のクリエイターさんにお話を聞いていきます。
第二回目は、男女問わずボーダーレスなジュエリーを展開するブランド「CREDO」のデザイナー兼クラフトマン、EMIKO AMANOさん。
企画からデザイン、制作まですべて自身で手掛ける彼女の熱意と意外すぎる思考に、伊藤巧さんも驚きのインタビューだったようです。
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>伊藤巧さんProfile
EMIKOさんと出会ったのは、新型コロナウイルスが発生する前。お互いの共通の友人の音楽イベントで初めてお会いさせていただいた。
僕もEMIKOさんも無類の音楽好きで、特にヒップホップとバンドサウンドの面では趣味が合った。そして2人ともバンドではドラム担当。共通点があると会話も弾みまくった。
そんなEMIKOさんが、ジュエリーブランドを立ち上げたという情報を聞いた時は、それはもうかなり興味津々だった。
「こんだけ音楽の趣味が合うなら、きっと俺好みのジュエリーに違いない」
さっそく「CREDO」のサイトにアクセスしてデザインを拝見すると、そこには良い意味で期待を裏切るジュエリーが並んでいた。
…
あれから数年。
あまり腰を据えて真面目な話をする機会はなかったが、このインタビュー企画で彼女のものづくりに対しての思考を探る。
特別好きというよりは、なくてはならないもの
伊藤:まずはEMIKOさんが手掛けるジュエリーブランド「CREDO」についてお聞きしたいのですが、立ち上げからどのくらい経ちましたか?
EMIKO:2018年の7月なので、3年経ちましたね。割と最近です。静岡から上京して1年ぐらいで立ち上げました。
伊藤:3年経ちましたか。この3年間いかがでしたか?
EMIKO:激動でしたよ(笑)本当に右も左もわからないまま始めてしまったので…。
伊藤:「CREDO」を立ち上げる前にEMIKOさんがどんな仕事をしていたのかあまり知らないのですが、始める前は?
EMIKO:静岡で福祉の仕事をしつつ、バンド活動しながらアクセサリーを作っていました。3つとも全部楽しくて、全然時間が足りなかったです。
伊藤:すごいね。タフすぎる。ジュエリーに興味を持ったのはいつ?
EMIKO:母親が昔、百貨店の宝石店で働いていて家にアクセサリーやジュエリーがいっぱいあったんです。子供ながらに身に付けてよく遊んでいました。アクセサリーやジュエリー自体が身近なものだったので、自然と物心ついた時から買うようになっていたんです。
伊藤:なるほど。環境か。その時からアクセサリーやジュエリーが好きでスタートしたんだ。
EMIKO:特別好きというよりは、なくてはならないものという感じでした。お化粧していないと外に出られないみたいな感覚で、ピアス付けていないと外に出られない、みたいな(笑)それで2011年ぐらいからジュエリーではなく、アクセサリー作りからスタートしました。
伊藤:最初作るための工具を揃えるのは大変じゃなかった?
EMIKO:アクセサリーを作っていた時期は、金属の加工を行えない分、色々なところから素材を集めていました。たくさんの工具が必要というわけではなかったです。
一番魅力を感じるのは「不必要さ」
伊藤:EMIKOさんにとって、ジュエリーの魅力ってなんでしょうか。
EMIKO:彫金を学び始めたのが、4年前ぐらい。そこからジュエリーというものについて色々なことを考えてきたのですが、一番魅力を感じるのは「不必要さ」です。ジュエリーって別に無くてもいいものなのに下着ぐらい身体と密着していて、人体の機能を考えるとすごく邪魔じゃないですか。なのに不必要なものを必要としている人たちがたくさんいる。そこに魅力を感じます。
伊藤:本来であればもっとやさしい素材が望ましいもんね。
EMIKO:わざわざ硬いものを身に付けて、穴まで開けちゃって(笑)
伊藤:すごい偏屈な目で見てるじゃん(笑)
「木ってかっこいいな」と思う瞬間があって
伊藤:企画やデザインを行うにあたって気をつけていることはありますか?
EMIKO:それがないんですよ(笑)
伊藤:何か着想を得て作るわけではないんだ。
EMIKO:個展はテーマを決めて開催したのですが、それ以外の普段制作しているものに関してはほぼないです。
伊藤:意外ですね。
EMIKO:インスピレーションは絶対に何かしら知らないうちに影響を受けていると思うのですが、これを見たからこのデザインにしたとかもないですし。逆をいうと、すべてから影響を受けているのでしょうか。
伊藤:あまり見たことがない造形だったり、素材の組み方が独特だったりするので、てっきり何か個別な影響を受けているのかと。
EMIKO:「CREDO」立ち上げ当初は、無機質でミニマルなデザインが好きだったので、割とそういったフォルムの商品が多かったのですが、ある日突然「木ってかっこいいな」と思う瞬間があって、そこから有機的なデザインにおのずとなっていきました。ですが意識的に取り入れたり、1つのデザインに対して…
伊藤:ちょっと待って(笑)木?
EMIKO:はい(笑)木ってすごいですよ。その日、夜中にお散歩をしていて、ある木が目に留まってすごく抱き着きたくなったんです。わたしたちが生まれる何十年も前からずっとそこにあって、おじいちゃんみたいな感覚。それから木に対しての親近感が半端じゃないです。
伊藤:木に対しての親近感ってなに(笑)
EMIKO:(笑)わたしは自然の中で育ってきて、身の回りにあることが当たり前だったので自然が好きとかはまったくなかったんです。それが東京に来てから当たり前じゃなくなって、別に欲してもいなかったんですけど。不思議ですね。
伊藤:木の見た目ではなく、スピリチュアルな意味合いでやばいってこと?
EMIKO:いや違いますね(笑)木の皮とか見た目もすごく好きですし、年月を重ねてきたヒストリーも好きです。葉っぱとかもすごくないですか?冬の時期の今にも落ちそうな葉っぱとかを見ると何とも言えない感覚になって、グッときちゃいます。
伊藤:インタビュアーとして失格だけど、よくわからん(笑)
EMIKO:そこから木とか植物ってすごいなって。そこから派生していって最終的に原始人すごいっていう感覚までたどり着きました(笑)そういった意味では、無機質なデザインに有機的な要素が少しずつ加わって、変化してきている。馬の毛や無加工の石を使ってみたり。
ジェンダーレスというよりかボーダーレス
伊藤:原始人はさておき(笑)個展に行かせてもらった時、商品にただならぬ気配を感じたのはそこからきているのかもね。個展はどうだった?そもそも「これは売れそうだな」とか商業的観点を含んだデザインをしているの?
EMIKO:本当に自分の好きなデザインを作っています。商品として売り出すものは、本来であれば売れる売れないを考えなきゃいけないのでしょうけど、わたし自身にその感覚があまり備わっていないです。OEMのお仕事もあるので、ずっとやりたい放題やっているわけではないですが…。
伊藤:前回、カメラマンの福田さんにも伺いましたが、売上にビビらないっていうのがフリーランスでは重要だと。
EMIKO:記事拝読しました。わたしも別に家がなくなっちゃっても平気です。どうにでもなるなと思います。危機管理能力がないのでしょうね(笑)
伊藤:すごいなー。失敗する方を考えちゃうよ、やっぱり。
EMIKO:若干考えはしますけど、若干ですね(笑)少し考えて終わり(笑)
伊藤:「CREDO」はメンズ・レディースを分けないじゃないですか?何か意図があるのですか?
EMIKO:そうですね。ジェンダーレスというよりかボーダーレスで、身に付けるものに問わずわたし自身がそういう考え方なので、時代に意識的に合わせているということはありません。
伊藤:ジェンダー問題が大々的に取り上げられる前、男性がお化粧をしていることに当初は結構びっくりしたのですが、今はもう全然ふつうですよね。ここ数年でノーマルになった。枠にとらわれず「かわいいから」「かっこいいから」っていう至ってシンプルな理由でチョイスしていることが素晴らしい。僕もそういう考え方でいたいと思うのですが…。「やっても似合わないな」が勝っちゃう。
EMIKO:似合う似合わないはありますよね。わたしも可愛いくてファンシーなものも好きなんですよ。でも自分で似合わないって思っているので選択肢からは外れていきます。
伊藤:だよね。だから彼らはすごいなと。似合う似合わないというよりは、そうありたいっていう願望でチョイスしているじゃない。我々世代にはない新しい感覚ではあるなと。
オンラインショップをいずれやめたい
伊藤:EMIKOさんはOEMもやられていますが「CREDO」のメインはD2Cビジネスですよね。このやり方もすごく普及されてきて、飽和状態になりつつある。誰でもオンラインショップを開けるから、買う側も選択肢がすごく増えちゃっていると思うんですよ。そうするともう見るの疲れちゃって…検索結果が多すぎる。逆にもう僕はお気に入りのセレクトショップばっか行っていて、この時代のセレクトショップにすごくありがたみを感じています。
そこで質問なのですが、「CREDO」はD2Cも含め今後の販売チャネルの展望はありますか?
EMIKO:オンラインショップをいずれやめたいと思っています。みんなにすごく反対されるのですが…。
伊藤:何故やめたいんですか?
EMIKO:この時代の流れでD2Cは一番賢いやり方だと思っていますし、良さももちろんあります。でも、わたし自身ネットで買い物はあまりしないんです。実際に納得して買いたいんですよ。少しでも気に入らないものは欲しくない。その考えがずっとあるので。
伊藤:なるほど。同じ思いの人がいるのではないかと。
EMIKO:そうです。それにオンラインはお客様の顔も見えないので、納得しているのかどうかもわからない。不安とまではいかないんですけど、大丈夫かなっていつも思っています。
伊藤:EMIKOさんとしても、100%気持ちよくって感じではないんだ。
EMIKO:もちろん、やっててよかったと思うこともありますよ。遠方のお客様で密に連絡を取り合って、すごい満足をしてくださって対面以上のやりとりができたこともあります。「こういうやり方もあるんだな」って思ったら、オンラインがすべて良くないとは思いませんが、すべてのお客様に同じ対応ができるわけでもない。そう考えたらやっぱり見て、付けて、納得して買っていただきたいですね。現在は東京、静岡、愛知のショップで購入できるのですが、もっと遠方の方も実際に見て購入できる基盤ができたら、ネットショップはやめたいです。
ずっと考えながら作り続けるしかないんですよ
伊藤:こうやって色々とお話しを伺うと、またEMIKOさんの印象が変わってきました。この記事を見ていただいている方には伝わりませんが、見た目と考え方と発言のギャップがすごい。
EMIKO:そうですか(笑)もともとこういう人間だったわけではないですよ。最初の頃は糸をピンと張ったような状態でものづくりをしていました。
伊藤:そこから木!とか原始人!とか理屈なく感化されるってすごいよ。
EMIKO:コロナで色々疲れていたのもあるかも。
伊藤:確かに。同時多発テロの時も震災の時も今回のコロナもそうだったけど、命と向き合わなきゃいけない時間が多かった。考えなきゃいけないというか。皆んなそういう時間を過ごしたと思います。
EMIKO:そうですね。それにこういうピンチの時って、皆んなの本質が見えてくるじゃないですか。国もそうですし、世の中や人も。それですごく考えちゃっていた時期でもありました。だから有機的なものにどんどん向かっていったのかもしれません。
伊藤:今後のジュエリー業界がどのように向かうといいと思いますか?
EMIKO:わたしが偉そうなことを言える立場ではないのですが、海外製の大量生産のものや、流行が主体になり過ぎているブランドもたくさんある中で、やっぱり愚直にものづくりに向き合って制作している人たちはすごくリスペクトしているし、そういう人が増えたら面白いなと思います。
伊藤:そうだね。コロナの影響で皆んなも仕事について考える時間いっぱいあったと思うんですけど、僕の知り合いでも自営業の人で「もう無理。やめた。」って断念する人と「そもそも自分は何を提供していたのだろう」って根底からもう1度向き合う人もいた。これで業界がどうこうなるってことではないけれど、後者のような練り上げ方は素敵だなと思う。もちろん生活がかかっているから、どっちが正しいとかはまったくないけど。
EMIKO:簡単な問題ではないのであれですけど、思うところはあります。でも我々は結局、ずっと考えながら作り続けるしかないんですよ。
伊藤:かっこいい(笑)こんなかっこいいお言葉をいただいたので、ここで終わりにしましょうか。また原始人の話しになると終わりが見えないので(笑)今日はありがとうございました。
EMIKO:ありがとうございました(笑)
伊藤:今日、服のスタイルかぶったね。
EMIKO:すごいですよね(笑)
CREDO
2018年スタートのジュエリーブランド
すべての工程を手作業で行なっている
ボーダーレス
CREDO購入サイト:https://credodesign.thebase.in/