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最も健康的な日 | おじさんは語る #01

こんにちは。女性向けWEBマガジン「ACTIS」の編集長、しまけんと申します。
皆さんが今読んでくださっている、このWEBマガジンですね。
これまで色々と女性に向けた記事を作って参りましたが、なんとなく反動で女性向けでもなんでもないアラフォーおじさんの話を書きなぐるコーナーをやってみようと思い立ちました。記念すべき初回はアラフォー男性にとってフジロックばりのビッグイベントとも言える、健康診断の話です。
本業はROOM810というデザイン会社でクリエイティブ・ディレクターをしています。自分では特に何もデザインしない人が良く使う肩書です。
>ACTIS編集長しまけんのProfile

アラサー、アラフォーという言葉がいつ頃登場したかご存知だろうか。

すっかり日本語として定着した感がある「アラサー」は、2006年の流行語だ。
これを追いかけるようにして2008年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされたのが「アラサー」という既成概念から派生した言葉、「アラフォー」だ。

2006年に29歳だった私は、まさに「アラサー」という言葉の誕生と共に、「アラサー」であった。
そして今年、アラフォーという言葉さえ賞味期限ギリギリの印象を与える44歳を迎えた。

44といえば、ランディ・バース。
そんな共通言語すら通じない20代、30代の若手編集部スタッフに囲まれて、女性向けWEBマガジンの編集長という謎のポジションに収まった一人のおじさんとして、何か書き残しておきたい。同じWEBマガジン内にアラサー男子、一人暮らしの生態を語るコラムがあるなら対抗してアラフォー男性のエッセイがあっても良いじゃないか。

そう思ってペンを取りました(正確にはキーボード)。

由緒正しいアラフォーとして、記念すべき第一回は健康診断の話をします。

健康診断、そう健康診断。
アラフォー男性にとって、これほどのイベントは無いといっても過言では無いだろう。

これから一年、どれだけお酒を飲んで良いのか、食事はどうすれば良いのか、健康面の行動指針とおじさんのランチタイムの話題を提供してくれる、一年に一度やってくるオリンピックのような一大イベント、それが健康診断である。

おじさんは基本的に数字の話しかしない。
昨日の試合で大谷翔平が第何号のホームランを放ったのか。先週末に行ったゴルフのスコアがどうだったのか。それと同じ比重で毎日のように仲間内で繰り返される数字の話こそが、健康診断で尿酸値がどうだったコレステロールがどうだったという「健康診断の数値をぶつけ合う」トークだ。

これは云わば、カードバトルのようなものである。
若い人にはルールがわからないだろう。解説しよう。

20代の時には気がつかない人生の真理がひとつある。

若い人には人類皆興味津々で接することができる、というものだ。

休みの日は何をしてるの?その服はどこの?映画はどんなのが好きなの?好きな音楽は?
こんな会話に触れながら暮らすことは、20代の若人にとっては何も難しいことではない。
ただの日常だ。

ところが、40代を迎えると、景色は一変する。

誰も自分に興味を示す人などいない。
家族にすら「え、今日早く帰るって聞いて無かったけど」と言い放たれ、自身の不在を日常として扱われる暮らしの中で、誰が私の好きな映画に興味などあるだろうか。いや、無い(反語)。

もちろん私も同世代の友人・同僚の好きな映画に興味など無い。
しかし興味のない相手とも一緒に働いたり、食事をしたりしなければならない。
話題が無い。興味も無い。
仕事の話をしては疲れが取れない。

そんな時に、誰もが持つ数値として急にスポットライトを浴び、エスペラント語のような共通言語として我々おじさんの前に登場する万能の存在。それが尿酸値であり、コレステロール値であり、血糖値だ。

「この前の健康診断で◯◯の数値が高かったんだよー」
「えー、じゃあ油もの控えたほうが良いんじゃないの」
「それぐらいの数値なら全然大丈夫、俺なんか再検査だよ」

そんな澄み切った出汁のように一時間後には何も残らない薄くて浅い会話をしながら、油にまみれた至高の唐揚げをつまむ一時間のランチタイム。
これこそがコミュニケーションだ。覚えておくと良い。

もう少しすると、アラフィフ。数字バトルは新しい局面を迎える。
妻の/旦那の親が◯◯の手術をした」という他人の数字引用カードバトルのはじまりだ。
もちろん、ただ数字が高いよりも「再検査」や「C判定」のほうが強いカードである。

ちなみに、「再検査と言われた」こそが最も強い手であって、「再検査の結果」は誰も興味が無いし、そもそも聞かないのが紳士のマナーである。小粋におじさん同士唐揚げをつまむほっと一息のランチタイムに、深刻な検査結果の話はそぐわない。
ふっとため息ひとつをリリースして、大谷の二刀流に話題を移す。そういうものだ。

話をカードバトルから健康診断に戻そう。

歳を重ねるにつれ、人生がヨーグルトに埋め尽くされる危機感を覚えている。

ヨーグルトの可能性は無限だ。
健康診断で悪い数値が出ると、おじさんは反省する。生活を改めるべきだと真摯に反省する。
人間は悔い改めることができる生き物なのだ。

しかし一方で、おじさんにとって健康診断の日は「最も健康的な日」でもある。
今後一年間の話題づくりのために、家族の前で「腹囲が2cm減った」などと自慢するために、皆それなりに直前の数週間、最低でも一週間は節制してその日を迎えている。診断結果が出た頃は、その反動で焼き肉なんかを食べている頃だ。あんなに頑張ったのに、なぜ。じゃあもう節制する必要も無いじゃない。そもそも食事で健康になるなんて無理だったんだ。

反動が出る。おじさんは反動が出る。
抑圧されると人間は極端な思想に走ることは歴史が証明しているではないか。

そんな暮らしの中で、私たちを救ってくれる一神教の神こそがヨーグルトである。

食後に食べると体脂肪を減らす効果があるヨーグルト。食後に食べると尿酸値を減らす効果があるヨーグルト。食後に食べると血糖値を下げる効果があるヨーグルト。
あなたのどんな数値にも、救いの手を差し伸べるヨーグルトがある。

私など、もう食後に5種類ヨーグルトを食べる勢いである。
それ本当に食後なの、いいえ、ケフィアです。

ガセリ(「が、しかし」を意味するヨーグルト界隈でポピュラーな接続詞)、5種類のヨーグルトをストックするスペースは家族と暮らすアラフォー男性の冷蔵庫には許されていない。必定、最も重点的に数値を改善したい症状に適応したヨーグルトを一週間分週末にまとめ買いしては、ガセリガセリと冷蔵庫に押し込むことになる。
(註:ガセリガセリは「せっせと」と「強く」を意味する擬態語)

数値は上がる、しかし俺たちにはヨーグルトがある。
会議は踊る、しかし俺たちにはヨーグルトがある。

これが今日私が伝えたい、アラフォー男性渾身のメッセージである。

最後に、健康診断の楽しみ方を皆さんに教えたい。

35歳以上の健康診断を受ける方には、もれなくバリウム検査が付いてくる。
初めて若年層から35歳以上の健康診断へ移行した時の驚きは忘れられない。若年層とは更衣室がもう別なのだ。
ドアを開けた瞬間から目に飛び込んでくるステテコの白、白、白。
インザホワイトルーム。ニアザステーション。

上手くパンツ(スラックスなどと呼ぶべきだろうか)を脱ぐことが出来ず、よろめいてはロッカーや他の受診者に身体をぶつけては丁寧なお辞儀で謝罪しあうおじさんたち。

ここが中年か。いま私は中年を迎えた。
そう強く感じた日だった。

検査前の断食からのバリウム。
そしてそれを流し去るための下剤。
苦手な人も多いだろう。
そしてどんなに若作りしても向き合わざるを得ない自身の中年感。
心が削られる人も多いだろう。

そこで、飯である。

健康診断から開放され、しばらく数値を気にする必要が無くなった自由な身体で、思う存分にこの一週間控えていたカロリーなり油分なりを摂取する。普段は同僚とランチなどしていても、ここだけは一人開放されて周囲を気にすることが無い至高の「孤独のグルメ」チャンスの到来だ。

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私は毎年健康診断を日暮里駅と鶯谷駅の間にある健診センターで受けている。
日暮里駅前・健康診断後のソロ飯と云えば、ここだ。

特徴は手打ち麺。
マツコの番組で冷やし中華一位として紹介され、一躍有名になった店だが、個人的には担々麺。
すべての麺が店内で手打ちされたコシと弾力のある自家製麺によるもの。ラーメン、中華麺というよりは細くしなやかなうどんのような食感の食べごたえのある麺が、12時間以上の断食を経た胃に心地よく落ちて、おじさんなりの全力で絞りきった身体に栄養分を与えていくのを実感できる。

量が食べられる人なら、あわせて餃子もオススメだ。
こちらも手打ちされた皮に包まれた、モチモチかつ凄まじい食べごたえ、ボリューム満点の逸品である。

おじさんの健康診断後ソロ飯には忘れてはならない、鉄則かつ味のスパイスとなるエッセンスがひとつがある。
我々は下剤を飲んでいる、ということだ。

ゆったりと供される食事を心穏やかに味わう時間は、私たちには、無い。
スピード勝負なのだ。

早く食べて、早く出て、早く出す。
このギリギリの焦燥感との戦い、店内に一定間隔で響き渡る麺を打つ「ダン!」「ダン!」というリズムカルで力強い音が誘うトイレとの戦い。提供スピードと自身の食べるスピードを完璧に読み切り、タイムアップ前に完食して席を立つ。すべてが勝負の世界。この勝負に勝ったものだけが、「ごちそうさまでした」を告げて、また来年ここに還ってくる資格を有する。

心の中で「孤独のグルメ」の松重豊よろしく「まさか餃子の到着が少し遅れるとは」「間に合うか」「うーん、なんと力強い麺」「これは時間内に噛み切って完食できるか?」などと一人実況中継をしながら飯を食う。
これはもうスポーツ。
これがエンターテイメントでなくて、一体なんだと言うのか。

実は昨年、「ソロ飯」という自分ルールを曲げて、この店を二人で訪問した。
健康診断で隣の席になったおじさんと、「腹減りましたね」「減りました」「私このへん初めてきたんですが、なんかオススメのお店あります?」「ありますよ」という当たり障りのない会話から、一緒にこの店へ行くことになったのだ。

おじさんは奥ゆかしく、グイグイ来ない生き物である。
もちろん、こんな時も「一緒に行きます?」「一緒に飯食います?」といった、核心を突いて他人のプライベートエリアに土足で踏み込むような真似はしない。

「へー、美味しそうですね」「私はこのあと行きますね」「私も、そこ、行こうかな」

そんな豊富な社会経験に裏打ちされた、決して相手との距離を詰めすぎない穏やかな会話を楽しみながら、「各々行動を選択したら、たまたま行き先が同じになった」という距離感で付かず離れず、同じラーメン屋に入店する。
これこそが紳士の嗜み、紳士のマナーである。

溢れ出す若さも、眩しいほどの爽やかさも、勢いという名の活力も。
すべてを失ったことを自覚する大人同士だからこそ、穏やかに回りくどく、決して相手に不快感を与えないように慎重に距離を詰める。自然発生的にメタボに危機感を覚える紳士二人が寄り添ってラーメン屋の暖簾をくぐると、最大のハイライトが訪れる。

「いらっしゃいまーせー、何名様か?」

少し片言の中国籍と思しき店員さんの声に、意を決して私は答えた。

「あ、二人です」

その瞬間、少し驚いたように、しかし嬉しそうに私のほうを振り向いたおじさんの目には、確かな友情の炎が宿っていた。
相席でいいんですか?いいんですよ。
心の中でそんな会話を交わして、着丼を待つ。

食べ始めて「ああ、これは美味いですね」「でしょう」とだけ感想を漏らしたあとは、また無言。
友人同士なら一人前の餃子をシェアして無理なく食べ切れるのだろうが、そこまで距離を詰められず、しかし餃子を諦めきれなかったおじさん二人は、お互い一人前ずつの餃子に四苦八苦しつつ、迫るタイムリミットを目指して共同作業でお互い完食。無言でタイミングを測って、ほぼ同時に席を立つ。

「あ、お会計は別々で」

名字も名前も年齢も知らないが、何ていうんですか、連帯感。
あのとき、私たち二人は確かに友人だった。
そして、無言で同じ芝居で、阿吽の呼吸で同じ役割を演じたのだ。
知らないおじさんと一緒に、相手に不快感を与えず安全に同じ飯を食う、という役割を。

見事演じきった私には、これから先も毎年健康診断で日暮里を訪れるたび、一年に一度私には名前も知らないおじさんと確かなチームワークで担々麺を一緒にすすった記憶を思い出して静かに笑う、その権利が与えられた。
不確かなものが多い昨今、毎年必ずあると思える予定以上に重要で、心の安定を保ってくれるものがあるだろうか。

老いは誰にでも等しく訪れる。
そして日常は退屈だ。
しかし、私たちおじさんには、ほんの少しの刺激で日々をエンターテイメントとして楽しみ、ドラマのように演じて楽しむことができる、そんな場が与えられている。加齢は怖くない。いつだって人生は些細な驚きに満ちている。

といった前向きなメッセージを発信する連載にしたいと思っております。
腰が痛いので、今日はこのへんで。



【WEBマガジン「ACTIS」連載記事更新のお知らせ】

女性向けWEBマガジン「ACTIS」にて連載中の「花と植物とイロドリLife #06」が公開されました!

Museum of plants -植物の美術館-をコンセプトとし、アクセサリーやフラワーアレンジメント等のデザイン、製作を手がけているボタニカルブランド「hakumokuren」主宰のmiwaさんに“日常をちょっとだけ特別なものに彩る植物のある暮らし”をテーマに綴っていただきます。

今回は、年の始めによく目にする縁起の良い植物たちについてご紹介いただきました。

毎月第3月曜日更新予定です。

最新記事は、https://actis.press(当アカウントのプロフィールリンク)よりご覧ください。

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【映え写真とりにきてん #06 更新!】

今回は、2022年初雪が降り積もった東京で撮影した写真と、新潟県で撮影した雪国の幻想的な写真をご紹介いただきました✨
季節によって、春夏秋冬それぞれの良さがあり、『今、この瞬間を撮りたい。』と強く思う福田瞳さんの素敵な写真をご覧ください!

こちらよりご覧ください💁‍♀
https://actis.press/2022/1/12/hitomi_photo-07/

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【丁寧な生活が楽しいのです 更新】

1月は春・夏野菜栽培用の土づくりするための時期ということで、休眠中の野菜が目覚めるまで、いつもとは違う目線での「丁寧」をご紹介いただいています!
ご覧ください~💁🏼‍♀️

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今月の占いはもう見ていただけましたか?🔮
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